RIEF サステナブルファイナンス大賞 2022 表彰式スピーチ

一般社団法人環境金融研究機構(RIEF)が主催する「第8回サステナブルファイナンス大賞」のNPO/NGO賞に350 Japanが選ばれました。

三井住友フィナンシャルグループに対して、パートナー団体等と連携して、気候変動対策の強化を求める株主提案とエンゲージメントを実施し、メガバンクの気候対策や情報開示を促す活動の展開が評価されました。

以下、渡辺瑛莉(国際環境NGO 350.org Japanシニアキャンペーナー)による表彰式スピーチです。

表彰式スピーチ

350 Japanは世界180カ国以上で活動を展開する国際環境NGO 350.orgの日本の拠点として、2015年から気候危機の解決に向けて、金融機関への働きかけを中心に活動を行なっています。

この度は、このような賞をいただくことができ、大変光栄です。

今回の賞は350 Japanだけでなく、共に活動を行ってきた市民株主とパートナーNGOの気候ネットワーク、マーケット・フォース、レインフォレスト・アクション・ネットワークのメンバー、そして株主総会当日に会場前で声をあげた多くのボランティアや市民の皆さんなど、気候市民ムーブメント全体に頂けたものと思っています。

私たちは世界中の数百万人の、気候危機を憂慮し、自ら積極的に行動を起こしている市民と活動を共にしています。

今日も会場に来ている、市民株主であり、また若い世代が中心の350 New ENErationのリーダーでもある山崎鮎美さんは、古い石炭火力の延命と批判されている「GENESIS松島計画」の反対キャンペーンを、数千人の市民を動員して展開するなど大変パワフルに活動しています。

こうした市民の存在が日本でも増えていることは大きな希望でもあり、また、それだけ気候危機への対応が待った無しの状況であることを象徴しているとも言えます。

世界では気候災害が相次ぎ、過去8年間は観測史上最も暑い年でした。2022年、大気中の温室効果ガス濃度は過去最高を記録し、また化石燃料とセメントからのCO2排出が過去最高を記録する見込みです。

世界の平均気温はすでにおよそ1.2度上昇しましたが、最悪の状態を回避するために、そして気候システムが制御不能な状態となる臨界点を超えないように、1.5度までに気温上昇を抑えるためのタイムリミットはほんのわずかです。

そのためにはこれ以上新規の化石燃料供給の余地がないことは最新の科学により明らかになっています。

過去3年連続でメガバンクに対して、気候関連の株主提案が提起されていることは、気候危機の原因を取り除き、解決を進めるために、金融機関の果たす役割の大きさに注目が集まっていることを物語っています。

それぞれの株主提案は、メガバンクの気候変動対策の強化と情報開示の拡充を一定程度、後押ししました。

昨年の三井住友フィナンシャルグループに対する株主提案とエンゲージメントの結果、石炭採掘と関連インフラの新規開発と拡大を禁止するファイナンス方針の策定や、電力およびエネルギーセクターの2030年排出削減目標の策定と開示などを後押しすることができました。

しかし、ネットゼロへのゴールの実現には、着実に化石燃料への資金提供を減らしていく方針と行動が不可欠であり、さらなる前進が必要です。

ロシアによるウクライナ侵攻やエネルギー危機は、化石燃料への揺り戻しではなく、化石燃料への依存を減らす方向へとさらなる舵を切る必要を示しています。

株主提案の背景には、三井住友FGのパリ協定以降の化石燃料への資金提供の増加傾向や、「東アフリカ原油パイプライン(EACOP)」のような環境破壊と人権侵害が著しく懸念されるような問題プロジェクトへの三井住友銀行の積極的な関与などがありました。

事業を進めるトタル社の財務アドバイザーを務める同行と、同事業への関与を否定していない三菱UFJ銀行には、昨年のCOP27でも若者団体をはじめ、国際市民社会から批判の声が上がっていました。

化石燃料企業だけでなく、企業を支援する金融機関にも、厳しい目が向けられており、今後もその傾向は益々強まるでしょう。

今後は、優秀な人材を集めるためにも、企業は見せかけの対策ではなく、気候危機の本当の解決に向けた行動が、事業活動の中で一貫して行われているかが厳しく問われるでしょう。

特に、「グリーンウォッシュ」に敏感な若い世代の間では、すでに世界で「Climate quitter」つまり、所属企業の気候への悪影響を理由に仕事をやめる人が増えているそうです。

気候危機の悪化に加担せず、逆に真の解決に向けてポジティブなインパクトをもたらすことができる企業こそ、今の時代に存在価値を高めていくことができます。

金融機関は、化石燃料への支援から、省エネや再エネといった真の解決策に資金を投じることで、社会へのポジティブなインパクトをもたらし、自らの企業価値を上げることにも繋がります。

その意味では、環境NGOとメガバンクは、脱炭素というゴールを共にしたパートナーとなりつつあります。
株主提案とエンゲージメントはその協力関係を後押ししました。

私の若い友人で、「環境活動家を無くしたい環境活動家」と名乗っている人がいます。

環境NGOも本来はいなくなることが目的の団体と言えます。

気候変動対策の強化を求める株主提案やエンゲージメントも、NGOがやらなくても済むようなることが理想的です。

しかし、現状では、環境NGOや市民による気候ムーブメントの活動は手を緩めることはできません。

科学の声に耳を傾けるなら、今後数年間が人類の命運を決めると言っても過言ではないくらい、大事な数年間だからです。

写真右から環境金融研究機構(RIEF)の藤井良広代表理事、市民株主の山崎鮎美さん、渡辺瑛莉シニアキャンペーナー、ジャパンチームリーダー代理の伊与田昌慶

私たちは複数の危機に直面していますが、気候危機が解決されなければ、他の危機もさらに悪化すると言われています。

逆に気候危機の解決に向けて、これまでの偏った社会システムを同時に是正し、より良い社会の実現に向けて、ポジティブな変化をもたらすことも、今の時代に生きる私たちの共通のゴールと言えます。

今後も共通のゴールを持つパートナーとして、多くのステークホルダーのみなさんと繋がり、共にポジティブな変化を起こしていけたら嬉しいです。

シェア