2024年の夏から秋にかけて、350 Asia主催のトレーニング、「Asia Solidarity Lab」(以下ASL)が行われました。8月から2ヶ月の間、アジア各国から気候アクティビストが集まり、ウェビナーを通じて学びを深めました。ASLは気候正義の観点から、異なる地域の課題や視点を学び合い、地域横断的な連帯を育むことを目的にしたプログラムです。
10月にはインドネシアのスバンにある「IBEKAファーム」という、小水力発電で電気をまかなっているコミュニティに実際に集まり、フィールドワークをしました。今回は、日本からASL2024に参加したお二人に話をききました。
プロフィール
二ノ宮リム虹(にじ):2006年生まれ、東京都出身です。2024年の3月に高校卒業後、ギャップイヤーを1年取り、2025年の4月から国際基督教大学に通っています。私が環境問題に取り組み始めたのは、高校1年生のコロナ禍の時で、地域で友達と「未来守」という団体を設立してゴミ拾いなどの活動をしていました。オーストラリアに留学時に気候危機ムーブメントに本格的に関わり始め、今はFridays For Future Tokyo、record 1.5、選挙で聞きたい気候危機に所属しています。
今岡明日美(あすみ): 東京生まれ、福岡育ちです。現在、長崎大学の環境科学部の4年生(休学中)です。小さな頃から自然が好きで、高校生の時オーストラリアの森林火災が発生したことをきっかけに、環境問題だけでなく、世界で起こっている様々な問題に対して、関心、というより不安感を覚え何かしなければならないと思いました。また周りで活動している高校生を見て、高校生でもアクションを起こすことが出来ることを知り、様々な活動を始めました。私は、地球温暖化・気候変動への問題意識と共に動物福祉にも興味があり、畜産業や実験動物などにおける問題も解決しなければならないと思っています。高校を卒業する少し前からFridays For Future Fukuokaで活動を開始しました。
まず、2ヶ月のウェビナーの中で一番印象に残ってることを教えてください。
にじ:ウェビナーの中では、いろいろな分野で活躍されている人のお話が聞けてどれも興味深かったのですが、特に気候変動とメンタルヘルスの回が印象に残っています。
環境心理士の方が気候危機とメンタルヘルスの関係性などについてレクチャーしてくださったのですが、私も環境心理学に興味があって、まさに気候不安症などに向き合う心理士さんになりたいと思ってるので、すごく勉強になりました。
あすみ:私も、特に印象に残ったのは、メンタルヘルスに関するセッションでした。気候変動などの環境問題で直接的に被害を受けている方は、大切なものを失う悲しみやトラウマなどがあると思います。
加えて、自分自身もそうですが、直接的な被害は受けてないが環境問題を解決したいと行動を起こしている人たちも、心のケアが必要な時があると思います。例えば、デモなどの抗議活動をする中で、精神的に疲れる時があると思います。心は目には見えませんが、ケアは大事だと思った記憶があります。
10月に行ったインドネシアのIBEKAファーム、滞在中に楽しかったことや大変だったこと、活動の中での気づきはありましたか?
にじ:私は小水力発電所を見にジャングルの中を歩いてガタガタ道を行くのがめっちゃ楽しかったです(笑)今までリアルに発電所を見たことは1回もなかったので、単純に、こんなに山奥のこんなに小さいもので発電できるんだ!って感動して、ビジョンが広がりました。
印象的だったのは、アジア中の活動してる人と会えたことです。国を超えてみんな頑張ってるんだと肌で感じられて勇気をもらえました。普段活動してるとどうしても目の前のアクションに精一杯になっちゃうけど、仲間と楽しむ時間を取ることの必要性も改めて認識できました。
もうひとつの気づきとしては、私は日本という、いわゆるグローバルノースの国出身でしたが、ほかのみんなはグローバルサウスと位置づけられる国々出身で、自分の中の加害性も強く感じた瞬間でもありました。
小水力発電をみるために、滞在先からバスで1時間強、車でガタガタ道を30分、その後ジャングルの中を1時間歩きました。
あすみ:私は、自分の学部でも、温泉がある地域での地熱発電の見学など、フィールドワークに参加したことがあります。そこは比較的行きやすい場所にあったんですが、IBEKAでの小水力発電の見学は、発電所が山奥にあって辿り着くことが想像以上に大変だったということと、そういう思惑はないと思いますが、本当に本来の自然の中に暮らしがあるんだと感じることができました。
事前に見た動画では、地元の人は発電所を運営していきたいという気持ちがある一方で、管理する知識等がまだ普及されていなくて、大変だということを知りました。活用できるポテンシャルがあっても、制度などを整えるにはどうしたらいいんだろうって考えてました。
普段関わることが少ない色々な国から来ている参加者と出会いました。みんなのことは、インスタグラムなどですごくパワフルな様子ばかり見ていたのですが、今回、人間らしい一面、面白いとことか、涙もろいとことか色々な一面を知ることができました。
普段さまざまなアクションを起こしている人たちも、ちゃんと人間なんだって実感して、少し嬉しかったです。
ASLから帰ってきた後、どんな活動をそれぞれしていたのかお聞かせください。
にじ:オーストラリアのニューキャッスルという場所に世界最大の石炭輸出港があるのですが、そこでRising Tideという団体主催の、市民7000人以上で集まってカヤックで輸出船を止めようというアクションがあり、参加して取材のお手伝いをしていました。
そこではアクションのことを「プロテスティバル」という「プロテスト(抗議)」と「フェスティバル(お祭り)」を合わせたワードで呼んでいて、まさにその名の通りの雰囲気でした。夜は結構有名なアーティストの音楽ライブもあるし、家族連れでたまたま通りかかったから来てみたみたいな人もいるし、でもオーストラリア史上最大の環境アクションともされていて、そのバランスがすごくいいなって思いました。
そこでもまた、活動してる仲間はいっぱいいるんだ、と感じられて、それが今自分が立ち止まらないでいられる大きな理由になっていると思います。
あすみ:私はアゼルバイジャンで行われたCOP29に参加してきたんですが、ASLで市民の連帯をすごく感じて、COPでは、その連帯を政府関係者たちに示さなければなりませんでした。それがすごく大変でしたが、皆で工夫をしました。
例えば、Pay UP!つまり、気候変動で被害を受けた人々にそれに対する資金を出してというメッセージが込められたテープを口元に貼りました。今回COPのアクションの規制が例年より厳しかったらしいのですが、口を塞いだテープには声を上げることすら抑圧されているという皮肉も込められていたと思います。
成果文書が完成する前日の夜まで皆で粘って、アクションをしました。かなり疲れましたが、市民がこうやって声を上げることが大事だな、と改めて実感しました。あとはASLにネパールから参加していた2人にも再会しました。
私たちグローバルノースから参加したメンバーは、グローバルサウスの人たちの声を近くで聞いて、それが心に刺さりました。COPで体力を消耗しましたが、そこで終わらずに燃え尽きず、もっと声を上げる必要があると思いました。
「一人が変わったところで何も起きない」と言う人も多いと思いますが、COPのPeople’s Plenary*では、何千人もの人が集まってて、それを見た時に、「この人たち全員声上げてるんだから、ちゃんと変化はもたらされるだろうなって思って、日本にもこの連帯感、熱を伝え広げなければならないと思いました。心の安心は本当に大きかったです。
どちらかといえばグローバルノースの人たちは加害側、グローバルサウスの人たちは被害側だと思うんですが、立場に関係なく、みんなで声を挙げて、上げそこに気候正義があると感じました。直接的な被害(負担)もそうですが、抗議するのも結構、体力を消耗するので負担だと思います。でも、それを皆で分担して声を上げられたのはすごく良かったと思いますし、安心感がありました。
帰ってきてから1ヶ月ほどは疲れ切っていたんですが、だいぶ回復してきて、今は明日を生きるための若者気候訴訟に原告として参加させてもらっています。電力会社に温室効果ガスの削減努力をちゃんとするように、裁判という形で訴えてます。
*People’s Plenary: COPの交渉が行われる会議場を市民が借り切って、気候危機の解決を求めて声を上げる日。
今後やりたいこと、活動の目標などはありますか?
あすみ:大きな目標は、もっと色々な人を巻き込むことです。気候変動を止めたり、環境問題などを解決したりするために。そして、小さくはないんですが、ASLで立てたアクションプランは、エネルギーについて、私よりも若い学生たちと一緒に学ぶことです。
私の住む長崎には地熱発電があって、隣の佐賀県には原発があって、エネルギーは私の苦手分野ですが、一番勉強しなければならない分野でもあると思っています。インドネシアで得た知識を踏まえて学んでいきたいです。
あとは、冒頭で話したメンタルの部分で私自身も精神的な波があって、エネルギーがある時とない時の差がすごくて、どうやってコミュニティで皆で支え合える仕組みを作っていけるのか考えていきたいと思っています。
にじ:私は、ASLでもオーストラリアでもすごい「楽しい」っていう気持ちを感じる瞬間がたくさんありました。だからこそ、私が今いる日本でもこの楽しさを自分たちの手で生み出して、魅力的なアクション・イベントを、地道に一歩一歩積み重ねていきたいなと思います。そしてあすみが言ってたことにも通じますが、もっと人をいろいろな人を巻き込んでいきたいです。
あとは、私も所属してる団体でちゃんとお互いをケアする時間を取りながら、持続可能な方法でアクションができるためには何が必要かを仲間ともっと考え、対話し、模索し続けていきたいです。
ありがとうございました!
Asia Solidarity Labは2025年も開催予定です。アジア各国からのアクティビストたちと集い、それぞれの国でのアクションや取り組みのシェアに、ぜひ参加してみませんか?
日本からも参加者を募集中ですので、ぜひご応募ください❤️
- 対象者:日本を含むアジア地域に在住で、気候変動・再エネの活動を3年程度している方
- 使用言語:英語
- プログラム時期:8月2日から10月11日まで毎週土曜日にオンラインセッション
- お申し込みは下記のリンクから
詳細はこちら(リンク先は英語です):https://asiasolidaritylab.org/apply/