2021年度┃日本のメガバンク3行の気候関連ポリシー比較

公開:2021/06/21

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環境NGO3団体(国際環境NGO 350.org Japan、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、気候ネットワーク)は、6月23日から始まるメガバンク3行(三菱UFJフィナンシャル・グループ:MUFG、三井住友フィナンシャルグループ:SMBC、みずほフィナンシャルグループ:みずほ)の株主総会を前に、今春の各行の気候関連ポリシーの改定を踏まえ、3行のポリシー比較を公表しました。1

主なポイントは以下の通りです。
  • 評価項目は、投融資ポートフォリオにおける脱炭素目標、投融資ポートフォリオ全体の排出量の計測へのコミットメント、石炭火力、炭鉱(石炭採掘)、石油・ガス、パーム油、他の森林リスク産品の各セクター方針、包括的な人権方針、セクター方針の適用対象の9項目で、総合評価ではみずほが最も進んだ方針を発表している。

  • みずほが特に評価されたポイントは、石炭火力、炭鉱、石油・ガスの各セクターを主たる事業とする企業の移行リスクに関するエンゲージメントを強化する方針を打ち出した点、石炭採掘への投融資を原則禁止とした点、セクター方針の適用範囲が全グループ会社の投融資(与信、債券・株式引受、投資)に適用される点である。
     
  • 投融資ポートフォリオにおける脱炭素目標では、MUFGが2050年までにカーボンニュートラル達成を目指す長期目標を発表し、Net Zero Banking Alliance(NZBA)への邦銀初の参加銀行となった点が評価された。一方で、短期・中期目標で評価された銀行はなかった。

  • 投融資ポートフォリオ全体の排出量(スコープ3)の計測へのコミットメントは、SMBCのみが明示的にコミットしている点が評価された。
     
  • 石炭火力ポリシーでは、3行とも、2040年石炭火力フェーズアウトの目標を掲げ、新規計画へのファイナンスは行わないとしているが、CCUSや混焼といった新しい技術を装填した石炭火力発電所を対象外とする抜け穴を残している。みずほは上述のようにコーポレートレベルのエンゲージメントを強化。MUFGは、石炭火力発電事業者へのコーポレートファイナンスのポートフォリオ削減目標を設定すると表明しているが、いつ、どのように実行されるか明確にされていない。
     
  • 鉱業(炭鉱)ポリシーでは、みずほだけが、石炭採掘を原則禁止とし、上述のように石炭採掘を主たるビジネスとする顧客へのエンゲージメントを強化している。2行は山頂除去採掘(MTR : Mountain Top Removal)方式で行う炭鉱採掘事業のみ禁止。

  • 石油・ガスセクターポリシー では、プロジェクトレベルでは、SMBCとみずほがオイルサンド、シェール油及びシェールガス、北極での石油・ガス採掘、石油・ガスパイプラインについて、デューデリジェンス(社会・環境リスク評価)の強化を行う。一方、MUFGのデューデリジェンス強化はオイルサンド及び北極での石油・ガス採掘に留まった。コーポレートレベルでは、上述のように今春の改定で、みずほがエンゲージメント強化。

  • パーム油セクター方針では、3行全てが認証取得を要請しており、みずほの要請が最も強い。MUFGは顧客企業が森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE:No Deforestation, No Peat and No Exploitation )にコミットすることを最も明確に要請しているが、インドネシアの子会社バンクダナモンはパーム油への融資の窓口であるにもかかわらず、方針は適用されない。
     
  • 他の森林リスク産品の方針では、各行はそれぞれの方針に長所と短所がある。MUFGの方針は木材と紙パルプに限定されており、SMBCとみずほの方針は、木材、紙パルプ、その他の森林リスク産品を対象としている。

  • 包括的な人権方針では、明確に優位な銀行はないが、MUFGの方針は顧客企業や投資先が自由意思による事前かつ情報に基づく同意 (FPIC) を尊重する明確な規定がないので、SMBCやみずほよりも弱いものとなっている。

  • セクター方針の適用対象では、上述のようにみずほが最も強い。SMBCは全グループ会社に適用されるが、ファイナンスの種類は明確にしていない。MUFGは一部のグループ会社(三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJ証券ホールディングス)のみに適用され、与信と債券・株式引受に限り、投資が含まれないため最も弱い。
メガバンク3行のポリシー比較は以上の通りですが、3行の方針はいずれもパリ協定の1.5℃目標には整合しておらず、目標達成に向けてはさらなる方針強化が求められます。
比較分析の詳細は以下資料をご覧ください。

資料:日本のメガバンク3行の気候関連ポリシー比較

本資料は、6月8日時点の、日本のメガバンク3行(三菱UFJフィナンシャル・グループ:MUFG、三井住友フィナンシャルグループ:SMBC、みずほフィナンシャルグループ:みずほ)の気候関連ポリシーを比較したものです。2 3

各分野でトップランナーの銀行には★印を付け、評価したポイントを太字にしています。トップランナーがいない項目については、★印を付けていません。10項目を比較した結果、メガバンク3行の中では、みずほが総合トップという結果となりました。

1. 投融資ポートフォリオにおける脱炭素目標

MUFGはNet Zero Banking Alliance(NZBA)への邦銀初の参加銀行となった。

MUFG ★

長期目標

中期目標

短期目標

SMBC

長期目標

中期目標

短期目標

みずほ

長期目標

中期目標

短期目標

2. 投融資ポートフォリオ全体の排出量(スコープ3)の計測へのコミットメント

SMBCのみが投融資に伴う排出量を計測することを明示的にコミットしている。

MUFG

SMBC ★

みずほ

3. 石炭火力ポリシー

すべてのメガバンクは、2040年石炭火力フェーズアウトの目標を掲げ、新規計画へのファイナンスは行わないとしているが、CCUSや混焼といった新しい技術を装填した石炭火力発電所を対象外とする抜け穴を残している。みずほは、移行リスクを削減すべく対象をコーポレートファイナンスに広げている。MUFGは、石炭火力発電事業者へのコーポレートファイナンスのポートフォリオ削減目標を設定 すると表明しているが、いつ、どのように実行されるのか明確にされていない。

MUFG

プロジェクト紐付きファイナンス

資金使途に限定のないファイナンス

SMBC

プロジェクト紐付きファイナンス

資金使途に限定のないファイナンス

みずほ ★

プロジェクト紐付きファイナンス

資金使途に限定のないファイナンス

4. 鉱業(炭鉱)ポリシー

みずほは、石炭採掘を原則禁止とし、炭鉱事業に深く関与する顧客へのエンゲージメントを強化した。

MUFG

プロジェクト紐付きファイナンス

資金使途に限定のないファイナンス

SMBC

プロジェクト紐付きファイナンス

資金使途に限定のないファイナンス

みずほ ★

プロジェクト紐付きファイナンス

資金使途に限定のないファイナンス

5. 石油・ガスセクターポリシー

SMBCは石油・ガスパイプラインを含めたデューデリジェンスを強化。みずほはこれらのセクターにおける移行リスクを減らすため、これらのセクターに依存度の高い企業とのエンゲージメントを強化。

MUFG

プロジェクト紐付きファイナンス

1)オイルサンド採掘、非パイプライン、及び2)北極での石油・ガス採掘について、デューデリジェンス(社会・環境リスク評価)を強化

資金使途に限定のないファイナンス

SMBC

プロジェクト紐付きファイナンス

1)オイルサンド、2)シェール油及びシェールガス、3)北極での石油・ガス採掘プロジェクト、及び、4)石油・ガスパイプラインについて、デューデリジェンス(社会・環境リスク評価)を強化

資金使途に限定のないファイナンス

みずほ ★

プロジェクト紐付きファイナンス

1)北極圏での石油またはガス採掘事業、2)オイルサンド事業、及び、3)シェール油またはガス事業について 5、デューデリジェンス(社会・環境リスク評価)を強化

資金使途に限定のないファイナンス

6. パーム油セクター方針

3行全てが認証取得を要請しており、みずほの要請が最も強い。MUFGは顧客企業が森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE:No Deforestation, No Peat and No Exploitation )にコミットすることを最も明確に要請しているが、インドネシアの子会社バンクダナモン(Bank Danamon)(項目9の「セクター方針の適用対象」参照) はパーム油への融資の窓口であるにもかかわらず、方針は適用されない。

MUFG

顧客企業は、パーム油のプランテーション事業を認証し、 「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」 (NDPE ) を公約する必要がある。

SMBC

パーム油農園開発事業では、持続可能なパーム油のための円卓会議 (RSPO)あるいは準ずる認証機関の認証を受け、新規農園開発において森林資源と生物多様性を保護し、人権侵害がないことを確認する必要がある。

みずほ

すべての農園は、ある例外を除き、持続可能なパーム油のための円卓会議 (RSPO)による認証を得なければならない。

顧客企業は、「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止 」 (NDPE) などの持続可能な環境や人権の方針を策定し、地域社会との関係で「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」 (FPIC) を尊重するよう求められる。

7. 他の森林リスク産品の方針

各銀行はそれぞれの方針に長所と短所がある。MUFGの方針は木材と紙パルプ に限定されており、SMBCとみずほの方針は、木材、紙パルプ、その他の森林リスク産品を対象としている。

MUFG

木材・紙パルプの顧客企業は森林事業について認証取得しなければならない。違法伐採や保全価値の高い地域の森林破壊は禁止される。

SMBC

森林伐採を伴う事業については、違法伐採や「焼却」(解釈:火入れ)が行われていないことを確認し、各国の法令を遵守する。

みずほ

大規模農業(すなわち大豆やゴム)、木材やパルプに関して、顧客企業は、「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」 (NDPE) などの持続可能な環境・人権方針を策定し、地域社会との関係で「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意 」(FPIC) を尊重するよう求めている。

8. 包括的な人権方針

(*注: 一部のセクターの方針には追加的な人権保護規定がある)
明確に優位な銀行はないが、顧客企業や投資先が自由意思による事前かつ情報に基づく同意 (FPIC) を尊重する明確な規定がないので、SMBCやみずほよりも、MUFGの方針は弱いものとなっている。

MUFG

児童労働や強制労働を行なっている取引を禁止する。

非自発的住民移転に繋がる土地収用や先住民族の地域社会への影響を与える取引に対して強化デューデリジェンスを実施する。

SMBC

事業の影響を受けている先住民族から「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意 」(FPIC) を事業者が取得するように要請し、事業の労働条件への配慮をすること。

SMBCグループの人権尊重責任に抵触する取引や、搾取的労働慣行に対して直接的・間接的に助長する可能性のある取引の回避。

みずほ

児童労働や強制労働を行なっている取引を禁止する。
先住民族の地域社会に負の影響を与える事業や、非自発的住民移転に繋がる土地収用を伴う事業に対するデューデリジェンスの強化。

9. セクター方針の適用対象

MUFG

一部のグループ会社(主要子会社にのみ適用する。三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJ証券ホールディングス)
与信と債券・株式引受に限る。

SMBC

全グループ会社

方針には、「クレジット」 とのみ記載され、その範囲は明確でない。

みずほ ★

全グループ会社

投融資(与信、債券・株式引受、投資)に適用される。

化石燃料への融資・引受額(2016-2020年)と方針点数 単位:米ドル B=十億

日本の銀行の中で、MUFGは化石燃料全部門への資金提供額が最も多い金融機関である。パリ協定締結以降、化石燃料への資金提供額はアジア1位、世界6位である。みずほは世界8位、SMBCは同18位だった。
出典:『化石燃料ファイナンス成績表2021〜気候カオスをもたらす銀行業務〜』 6、2021年3月 (*化石燃料全部門への資金提供には2016-2020年の間に発行された融資および引受が含まれる)
MUFGみずほFGSMBCグループ
化石燃料全部門融資・引受額$147.7 B ­$123.5 B ­$86.3 B ­
世界順位6位8位18位
総合方針点数(200点満点)6点5点6.5点
化石燃料事業を拡大している上位100社融資・引受額$60.1 B ­$53.4 B ­$36.1 B ­
世界順位6位10位18位
方針点数(82点満点)2.5点2.5点2.5点
オイルサンド(上位35社)融資・引受額$1.6 B ­$0.7 B$0.5 B ­
世界順位12位18位22位
方針点数(18点満点)0.5点0点0.5点
北極圏の石油・ガス(上位30社)融資・引受額$1 B ­$0.8 B ­$0.9 B ­
世界順位12位15位14位
方針点数(18点満点)0.5点0点0.5点
海洋の石油・ガス(上位30社)融資・引受額$10.5 B ­$12.6 B ­$11.2 B ­
世界順位13位9位11位
方針点数(18点満点)0点0点0点
シェールオイル・ガス(上位40社)融資・引受額$21.8 B ­$19.8 B ­$7.2 B ­
世界順位6位7位17位
方針点数(18点満点)0点0点0.5点
LNG輸出入ターミナル(上位40社)融資・引受額$5.1 B ¯$6.5 B ­$6.5 B ­
世界順位8位6位5位
方針点数(18点満点)0/180/180/18
石炭採掘(上位30社)融資・引受額$0.5 B ­$0.4 B ­$0.3 B ­
世界順位26位38位44位
方針点数(18点満点)1点1点1点

資料リンク(引用・出典・参考)

  1.  6月8日時点の公表資料及び銀行との対話に基づく。
  2.  詳細はNGOs共同声明参照: MUFG 4月, 5月/ SMBC / みずほ
  3. みずほ, サステイナビリティアクション強化について, 2021年5月13日
    SMBC, 環境リスクへの対応 (最終アクセス日、6月8日)
    MUFG, 方針/ガイドライン (最終アクセス日、6月8日)
  4.  これらの例外についてはポリシーに明示されていないものの、SMBCグループとNGO団体との対話の中で述べられた。
  5.  ポリシーに記載はないものの、みずほとNGO団体との対話の中で、パイプラインを含む関連のインフラ事業にも適用されると述べられた。
  6. 『化石燃料ファイナンス成績表2021〜気候カオスをもたらす銀行業務〜』