スマートフォンでご覧の方へ

本特集ページは図表が多くパソコンでの閲覧を推奨しています。スマホですと一部見えづらい部分があるかと思います。ご了承ください。

目次

始まった "気候の10年"

〜持続可能な未来を求めて〜

豪雨、熱波、干ばつ、森林火災、氷河の融解、海面上昇、海水温の上昇や海の酸性化、農作物の収穫減や漁獲減、気候難民の発生、生態系における大量絶滅など、私たちはすでに気候危機の脅威に直面しています。2020年代は「気候の10年:Climate Decade」と呼ばれ、人類の命運を左右すると言われています。温室効果ガスを大幅に削減し、持続可能な未来を守るためには、あらゆるセクターの今すぐの行動が必要です。特に政府の高い目標設定と目標達成に向けた政策導入、そしてビジネス界のリーダーシップが求められています。

世界ではすでに、気候危機対策と持続可能なビジネス戦略を同一視する流れが強まっています。本項では、気候危機を加速することも、また解決に貢献することもできる「お金の流れ」に着目し、金融機関、とりわけ民間銀行の現状と課題を概観します。

1章 世界の中の日本

政府の気候危機対策目標と化石燃料への支援状況

世界では、気候変動がもたらす人類や生態系への壊滅的な影響を回避するため、2015年12月、パリ協定が195カ国により締結され、今世紀末までに産業革命前と比べて、平均気温を2度よりも十分に低く、1.5度に抑える努力を追求することが約束されました。

IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は2018年、特別報告書を発表。1.5度の気温上昇と比べて2度の上昇では人類と生態系への影響が一層大きくなることに警鐘を鳴らしました。また、もはや後戻りできない温暖化の負の連鎖が始まる「ティッピングポイント(転換点) ()」が、1度から2度の気温上昇でも起こる可能性が指摘されています。世界ではすでに1度気温上昇し、それだけでも人類はかつてない頻度と規模の気象災害に見舞われるようになりました。そこで、世界は今1.5度目標に向かって対策を取り始めています。

一方で、先進諸国はパリ協定以降も化石燃料への公的支援を減らしておらず、1.5度目標と全く整合していません。
特に石炭への支援を増やしている中国、日本、インドのうち、日本が最も支援額を増やしています。さらに、各国の削減目標(NDC)を全て達成しても3度以上の気温上昇が予測され、目標引き上げが求められている中、日本の水準は他の先進諸国と比べて低いままとなっています。

世界各国(G20)の化石燃料への公的資金投入状況

G20諸国はパリ協定締結以降、年間約8.3兆円(770億米ドル)もの公的資金を化石燃料関連事業に投じ、この額はクリーンエネルギーの3倍以上に及んでいます。日本は少なくとも年間1.04兆円(94億米ドル)の公的資金を化石燃料事業に投じ、中国とカナダに次いで第3位となっています。

しかも、石炭に対しては、日本はパリ協定締結前と比べて2倍近く支援額を増やし(23億ドルから42億ドルに増額)、第1位の中国(40億ドルから44億ドルに増額)に迫る勢いとなっています。

G20主要国の石炭への公的資金投入状況 (2013-2015 対 2016-2018)

出典:Oil Change International 「STILL DIGGING:G20 GOVERNMENTS CONTINUE TO FINANCE THE CLIMATE CRISIS」 作図:350 Japan

世界と日本の石炭火力発電所建設計画

世界の計画(トップ10)

建設計画の発表段階、許認可前、許認可後の3段階を合わせた計画容量の大きい順では、中国が圧倒的ですが、インド、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、フィリピンなどアジアの国々で多くの計画があります。なお、建設中を除く新設計画では、日本は世界でトップ15にランクインし、G7諸国では唯一新設計画を進めています。

出典:Global Coal Plant Tracker, January 2020 作図:350 Japan

日本の計画

2012年以降、50基(23,323MW)の新設計画があり、既に17基が稼動(試運転を含む)を開始し(年間CO2排出量:推計2,224.5万トン)、13基は計画中止となりました。建設中も含め残り20基が建設・稼動されれば年間CO2排出量は推計6,844.2万トンになります。

出典:石炭発電所ウォッチ 作図:350 Japan

日本の公的機関:融資・付保の状況

日本の政策金融機関である国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)および援助機関である国際協力機構(JICA)は、融資、付保、円借款などを通じて、東南アジアなどにおける日本企業の石炭火力発電所の輸出に大きな役割を果たしてきました。

金額としては、第2章にあげる民間銀行の投融資額よりも少ないですが、民間銀行による投融資のリスク軽減の観点から、公的機関による支援は大きな役割を果たしています。

公的金融機関の海外石炭火力支援の状況 (2003-19)

JBIC

国際協力銀行
$ 14,611
M
  • プロジェクト数:28件

NEXI

日本貿易保険
$ 5,544
M
  • プロジェクト数:19件

JICA

国際協力機構
$ 5,881
M
  • プロジェクト数:7件
プロジェクトキャパシティ (MW)PR発行日JBIC 融資NEXI 付保JICA 円借款
インドSimhadri1,0002003年3月31日47
インドBakreswar4202003年3月31日306
インドネシアTanjung Jati1,3202003年7月31日721481
フィリピンMindanao (STEAG)2322003年12月2日9140
タイBLCP (Map Ta Phut)1,4342004年3月30日408.5163
インドNorth Karanpura1,9802005年3月31日148
ベトナムNinhinh II3002005年3月31日315
ベトナムHai Phong I6002005年11月15日38.726
ベトナムHai Phong II6002007年3月29日3825
ベトナムNghi Son I6002007年3月30日772
インドBarh I1,9802007年12月20日380
インドネシアTanjung Jati1,3202008年12月30日1753Not Available
ベトナムThaiinh 16002009年11月10日1356
インドネシアPaiton III8252010年3月8日1215Not Available
インドネシアCirebon6602010年3月8日216Not Available
メキシコPacifico (Petacalco)6482010年3月23日273Not Available
インドJaypee Nigrie1,3202011年4月1日110
ベトナムVung Ang 11,2002011年8月12日58
インドRajpura1,4002011年12月28日8154
モロッコJorf Lasfar7002012年6月21日216146
チリCochrane5722013年3月28日500250
ベトナムThaiinh 21,2002013年8月22日8556
インドKudgi2,4002014年1月27日210140
バングラデシュMatarbari1,2002014年6月16日Not Available2,937
ベトナムVinh Tan 41,2002014年7月17日202135
インドMeja1,3202014年9月2日9060
モロッコSafi1,3862014年9月19日908473
ベトナムDuyen Hai 36882015年3月31日409273
インドネシアLontar (Banten)3152016年3月16日194127
インドネシアBatang (Central Java)2,0002016年6月3日2052
インドネシアTanjung Jati2,0002017年2月27日16781,678
ベトナムVinh Tan 46002017年4月11日5034
インドネシアKalselteng 22002017年6月21日14497
インドネシアCirebon 21,0002017年11月14日731487
ベトナムNghi Son 21,2002018年4月13日560Not Available
ベトナムVan Phong 11,3202019年4月19日1199799
Total37,74014,6115,5445,881

出典:No Coal Go Green 「List of Coal Power Plants funded by JBIC, NEXI and JICA (2003-2019) mln USD」 作表:350 Japan

日本政府のパリ協定に向けた目標

パリ協定締結各国は、COP26(気候変動枠組条約第26回締約国会議)までに、「自国が決定する貢献(NDC)」の目標を引き上げて再提出することが求めらています。一方で、日本政府は2020年3月末に目標を引き上げずに、再提出し大きな批判を浴びました。環境団体のみならず、国内の企業・自治体関係者、若者団体、国際投資家グループからもNDC引き上げの要望の声が事前に上がっていたからです ()。

2019年11月、UNEP(国連環境計画)は「排出量ギャップレポート2019 ()」を発表し、毎年世界全体で7.6%の排出削減が求められ各国は現在の5倍の努力が必要であると厳しい警告を発しました。さらに、これらが行われることなく、2025年から削減しようとした場合、毎年15.4%の削減が求められ、これはほぼ不可能であると断じました。

気候正義(Climate Justice)の観点から、化石燃料を大量に燃焼することで発展してきた日本を含む先進国はより一層の削減が求められていますが、日本の目標水準は他の先進国と比べ、低いままとなっています。

「自国が決定する貢献(NDC)」 国別一覧

※基準年と各国の情勢が異なるため、一律の比較はできない
※EUとノルウェーは、1990年比50~55%削減を目指すと発表済

出典:外務省「2030年の温室効果ガス排出削減目標」 作図:350 Japan

日本の電源構成 2030年度

日本の現在のNDCの根拠となっているのが、第5次エネルギー基本計画(2018年7月閣議決定) () です。同計画は約3年毎の改定を経ていますが、第5次計画はパリ協定採択後にも関わらず、パリ協定採択前の「長期エネルギー需給見通し」(2015年7月閣議決定) () の中で示された2030年の電源構成(エネルギーミックス)をそのまま引き継ぎました。

また、再エネを「主力電源化」と位置付けているものの、石炭火力と原子力を「重要なベースロード電源」とした第4次計画(2014年4月閣議決定)をそのまま踏襲しており、日本の政策の遅れを露呈するものとなりました。また、その議論のプロセスに民意が反映されていない ()といったプロセスの問題も指摘されてきました。

また、現在議論中の「石炭火力の輸出4要件」 () と呼ばれる事項が盛り込まれており、パリ協定との整合性と矛盾する形となっています。

“パリ協定を踏まえ、世界の脱炭素化をリードしていくため、相手国のニーズに応じ、再生可能エネルギーや水素等も含め、CO2排出削減に資するあらゆる選択肢を相手国に提案し、「低炭素型インフラ輸出」を積極的に推進する。その中で、エネルギー安全保障及び経済性の観点から石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り、相手国から、我が国の高効率石炭火力発電への要請があった場合には、OECDルールも踏まえつつ、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、原則、世界最新鋭である超々臨界圧(USC)以上の発電設備について導入を支援する。”

出典:経済産業省 作図:350 Japan

燃料種ごとのCO2排出係数(発電量あたりのCO2排出量)

パリ協定の下、各国は2050年までの長期戦略を提出することが求められ、日本政府は2019年6月「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略 ()」を閣議決定し、国連に提出しました。

長期戦略の中で、IPCC1.5度特別報告書にも触れ「我が国としても国際社会の一員として、パリ協定に掲げられたこの努力目標の実現にも貢献する」と書かれていますが、具体策に乏しく、イノベーション頼みとなっています。石炭火力発電は「脱炭素社会の実現に向けて、パリ協定の長期目標と整合的に、火力発電からのCO2排出削減に取り組む」としていますが、商用化されていないCCUS(炭素回収・貯留・利用)技術頼みで、「非効率な石炭火力発電のフェードアウト等を進める」としていますが、政府が高効率としているIGCCであっても二酸化炭素排出量はLNG火力の約2倍となります。科学の要請である2030年まで(世界全体で2040年まで)の石炭火力ゼロという目標とはかけ離れています(第3章参照)。

また、海外へのエネルギーインフラ輸出については、「パリ協定の長期目標と整合的に世界のCO2排出削減に貢献するために推進していく」としていますが、実際には上述の4要件をあげて東南アジア等への石炭輸出を続けています。

出典:環境省 作図:350 Japan