気候危機の時代に親になること(前編)

2022年6月11日に娘の色羽海が生まれました。お産とその後しばらくは、とても大変で、とても幸せで、40年の人生で、もっとも非現実的であり、同時にもっとも鮮やかに生きていることを体験した出来事でした。娘は現在1歳8ヶ月です。親になることで、自分の人生が大きく変わったことを日々実感しています。

日本で、そして世界で様々な理由から親になることを選ばない・選べない人が増えています。経済的な理由や、生き方の多様化に加え、近年、気候危機がその理由に入ってきました。

気候危機、この問題の大きさと緊急性に気が付いている人は、この時代に親になるという選択肢とどんな風に向き合っているのでしょう。

 

親になる計画と気候危機の気づき

私は、10年ほど前、ちょうど30歳になったころから、子どもを産むという形で母になりたいかどうかを真剣に考え始めました。20代をアメリカの演劇界で過ごした私は、同性婚をして養子縁組で子どもを迎え入れるカップルや、精子バンクを利用してシングルマザーになる女性など、多様な家族の形をとても身近に感じていました。

その当時長期的に関係を築けそうなパートナーになかなか出会えていなかったので、自然に自分が親になるならシングルマザーという形でかもしれないと思い、着々とそのための貯金を始めたりしていました。

その少し後に、私は気候危機について学び始めました。10代、20代で積極的に参加していた環境保護活動にまた携わりたいと思い、350 Japanのボランティアになったのです。そこで私は、少しずつ、地球の実態について知り始めました。

自然が大好きだから、環境を守りたいからと思って再度開いたドアの向こうに見えたのは、人類の存続を脅かし、地球のエコシステムが根本的に崩壊し始めているというSF映画のような現実でした。

 

大きくなったお腹を抱えながら大自然で森林浴を楽しむ日南子

 

日本で、そして世界でもまだ、気候危機のスケールと緊急性について十分に知っている人は、こんなに被害が多発するようになった今日でも少数派です。国連からも、「人類最大かつ存続の危機」と認識されていますが、この一言一句にピンときている人は、それでもまだ少ないのかもしれません。(詳しく知りたい方は、ぜひ、350 Japanの気候変動基礎クラス(無料)にいらしてみてください。)

ただ、この危機的状況を理解し、問題解決に積極的に関わっている日本・世界の気候アクティビスト、特に若者の中には、気候危機のこの時代に子どもを産まないことを選択している人が多くいます。

 

気候崩壊を免れるために、温室効果ガスを削減

私が聞いたことのある理由は二つあります。

まずは、気候危機の原因である温室効果ガスです。

人が一生のうちに生活する中で排出する温室効果ガスの量はとても大きく、特に、その人がグローバルノース(近代工業化された国)に生まれ、そこで人生を送った場合それは膨大なものになります。日本も、グローバルノース国の一つであり、温室効果ガス排出量世界第5位、国民が普通の暮らしの中で、トップクラスの排出量を出してしまっている国です。

そして今、気候危機の根本を理解している人がピリピリしている理由の一つが「気候崩壊」です。

速度が早く予測不可能で、かつ、元に戻すことのできない深刻な自然界の変化のことです。地球のエコシステムが根本的に壊れる、と表現しても過言ではない状態です。(ホットハウスアース シナリオなどと呼ばれるのがその状態ですが、興味のある方は、こちらのYoutubeを見てみてください。)

これを免れる可能性を少しでも上げるためには、これから6年後の2030年に温室効果ガスの排出を世界的に半減できている必要があります。その目標からまだ程遠い2022年の今、削減のために文字通り全ての努力が必要とされています。そういった観点からは、子どもを産まないことは、理にかなっていると言えますし、私はそう決断する人に心からリスペクトを感じています。

 

こんな世界に子どもを産みたい?

もう一つは、これからの時代は、すでに始まっていますが、気候災害が増え、それにより世界の情勢も加速的に不安定になるということです。

今まで私たちが体験してきた「普通の暮らし」の中で享受してきた安全、そして私たちが愛してきたこの世界での様々な体験を、次の世代の子どもたちは体験できない可能性があります。例えば、夏の風物詩、プール。もうすでに日本でも、学校や幼稚園などで、夏の間の屋外での水泳は暑すぎて危険と見なされ中止になっているところが多くみられます。

もっと言えば、そう遠くない未来で、海水浴に行きたくても砂浜が海面上昇により消滅してしまう地域もたくさん出てくることが予測されています。沖縄の石垣島の私の友達の話では、今年の夏は、涼みたくて海に行っても、海水温が高すぎてお風呂に入っているみたいで気持ちが悪かったそうです。

安全面も心配です。例えば、実際に近年気候災害にあって家を失った人はすでに日本にもたくさんいます。また、ロシアとウクライナの戦争が日本を含む世界の物価高騰を招いていますが、気候危機による食料や水などの資源の枯渇により、食糧難だけでなく紛争が起きる可能性はどんどん大きくなっていきます。

世の中がどんどん悪くなっていると感じ、そんな世界に子どもを産みたくないと感じている人がいるのは理解できることです。

 

親になることを決めるとき私が考えたこと

上の2点について、私はこんな風に考えました。

子どもを産めば、気候危機を止めるために行動できる自由な時間は減り、同時に温室効果ガスを排出する人を一人増やしてしまうことになるのは事実です。

でも、同時に、私の尊敬する、経験豊かなアクティビストの人が私に言ってくれたことがあります。「親になると、活動できる時間は確実に減るけれど、(親になることがあなたを成長させて)より良いアクティビストになれるわよ」と。

自分や娘が普通に生活しているだけで温室効果ガスをたくさん排出するこの社会の構造を変えていくことは、気候崩壊を免れるためには急務です。もし親になることで、より変化を加速できるアクティビストに成長していけたら、そこにより大きな貢献ができるかもしれません。

実際に、まだ2年弱ですが、親として生きていることは、今までの人生にない挑戦を与えてくれていて、その大変さの中で、より人やコミュニティと繋がり協力して生きていくことを学ぶことができています。

私の体を通して、人間が一人この世界に増えること。でも、その経験によって、私が変化を加速するより良い一部になれたら、温室効果ガスの排出量はもしかしたら総合的には減らせるかもしれません。

人間一人一人の排出量を減らすことよりも、発電方法などの社会の大きなシステム(構造)を変えることのほうがより迅速に大幅な排出量削減ができるからです。

 

途方もなく大きな問題を抱えた、とても良い世界

これからの世界についてはこう考えました。私は、誤解を恐れずにいうならば、今の世界を良い世界だと思っています。気候危機が原因で、この地球上で以前より多くの人が非常に苦しい人生を歩んだり、命を奪われている現状があります。

そしてその数は残念ながら年々増えていくと予測されています。それらのことは、もちろん全然良いと思いません。けれども、過去、例えば、私の子ども時代に比べて、とても個人的な感覚として、ある意味世界は良くなっていると思える点があるのです。

子どもの頃、ユニセフのテレビの番組で、初めてアフリカでの飢餓について知り、ショックを受けたことがありました。大きな目をした子どもの腕は、関節が大きく見えるほど細く、口の周りにハエが飛んでいました。

私は、4、5歳ぐらいだったと思います。すぐに解決策を考え、当時の私が世界で一番賢いと思っていた父に、「世界から国境を無くせば良いのではないか、みんなで一つの国になれば良いのではないか」みたいなことを伝えました。父の返答は、「それはとても難しいことだ」というものでした。

どちらを向いても、こんなにも大きく深刻で、緊急性を要する飢餓という問題を解決しようと動いている大人は見つかりませんでした。そして私は、成長していく中で、社会から自分の世界を変える力をそんなに信じないように促され、少しずつこういったことに鈍くなっていきました。

自分の生活を楽しみ、自分の人生がよくなることを考えることが普通であり正しいんだ、というメッセージをたくさん受け取りました。大きな問題を根本的に解決し、皆にとって公正な世界を作り出していくのではなく、今ある大きな問題の一部がちょこっとよくなるように、ボランティアをしたり寄付をしたりすることを励まされました。

では、それに比べて、私たちが生きている今の世界、そしてこれからの世界はどうでしょう。

気候危機という問題は、今、そうでなくても、近い将来には全ての人に大きく影響を与えます。そんな中、未だかつてない多くの人が、気候危機を生み出した世界、つまり、当たり前のようにアフリカをはじめ世界中に飢餓があり、全く解決される様子が見られない世界の不公平な仕組みを疑問視し始めています。一部の「活動家」や、「社会派」と呼ばれる人だけでなく、「普通の」人たちが、社会の仕組みを変えるために何ができるかを見つけ出し、行動しはじめています。

草の根運動が広がらないと言われた日本でもそんな人がたくさんいて、「今までこんな活動はしたことがありません」という人と私は日々活動をしています。それは、私が子どもとして体験したよりも、もっと良い世界です。この世界は、途方もなく大きな問題を抱え、そして同時に、本当に素敵な人に溢れています。私にとっては、娘と一緒に生きていきたいと思える世界です。

 

それぞれの人生でパワフルな決断を

親になるかどうか、それは、多くの人が持っている選択肢の一つで、普遍的な答えがないものだと私は思っています。

私が若い頃は、まだよく「女は子供を産んで初めて一人前」とか、

「それが女としての社会への責任だ」などという、今から考えるとびっくりするようなことが普通に言われていましたし、そういった言葉を私も受け取ったりしました。でも実際は、何がその人の人生にとって良い選択かは、一人一人違います。子どもを産むことで、女性が体験する人生でのセクシズム(性差別)は確実に増えますし、経済的にも大きな決断で、じっくり考える必要のある事柄です。

そして、気候危機の時代に子どもを産むべきかどうかという点でも同じく、そこに全ての人にとって正しい答えはないと思っています。大事なのは、それぞれの人が満足し、自分の人生の主役として、そして気候アクティビストとしてもパワフルな気持ちになれる決断をすることだと思っています。

私の人生にとっては、親になると決めたことは本当に良い決断でした。今までに体験したことのない愛を感じ、妊娠・出産・育児の挑戦を通して、パートナーや周りの人との繋がりも深まりました。赤ちゃんに日々触れることが、人間の本質がとても柔らかく、優しいものであることを教えてくれています。色羽海を育てていくこととこの世界をよくしていくこと、それは二つの別のものではなく、実は深く繋がった一つのことだと思うようになりました。

こちら、このブログの後編 <気候アクティビズムと子育ての交差点>近日投稿します。もしよろしかったら、ぜひ読んでみてください。

 

 

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