2章 邦銀と化石燃料ファイナンス

ポリシーとプラクティス( 方針と投融資状況 )

気候危機がもたらす壊滅的な影響を回避するために、パリ協定は各国に目標を定め削減行動を義務付けていますが、気候危機の解決のためには非国家アクターの行動も不可欠であると言われています。なかでも、金融機関は、化石燃料産業への資金提供を通じて気候危機を加速することも、また省エネや再生可能エネルギーなどへの投融資を通じて気候危機の解決に寄与することもでき、国連や環境団体のみならず、投資家や株主 ()などからも近年大きな注目を集めています。

ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の世界的な広がりは、気候危機対策を含む社会課題への対応を行うことが企業価値の向上に繋がることを示し、また、石炭や化石燃料からのダイベストメント(投資撤退) () の広がり(2020年6月時点で1237機関・資産総額14兆1400億ドル)は、気候危機対策が遅れている企業は投資家から評価されないことを示しています。こうした投資家からの圧力に加えて、近年の気象災害の増加や脱炭素経済への急速な移行の動きによって、気候リスクは「市場リスク」「金融リスク」(その反対の「機会」)とも見なされるようになり、欧米を中心に金融機関自らが気候危機を真剣に捉え直し始め、脱化石燃料・脱石炭方針 ()を次々と発表しています。

また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)賛同企業の増加など、気候危機対策とその情報開示を行うことで、株主や投資家、顧客から評価される潮流ができつつあり、特に化石燃料産業への影響力の強い金融機関の情報開示に注目が集まっています。一方で、下記に見られるように、日本の3メガバンクはいまだに、温暖化の最大の原因と言われている石炭火力発電を支援し続けています。

化石燃料市場に取り残される邦銀

世界の石炭火力発電開発企業トップ258社に対する融資、引受業務、債権および株式保有を分析した調査の結果、2017年から2019年9月の間に行われた金融機関による石炭火力発電開発企業への投融資額は7450億米ドル(81兆1,505億円:1ドル109円換算)に及び、日本の民間銀行と機関投資家が上位を占めていました。日本の3大金融グループであるみずほフィナンシャルグループ(みずほ)、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)はそれぞれ石炭火力発電開発企業への融資額で世界第1位から3位までを占めました。

石炭火力開発企業への融資 銀行世界ランキング(2017〜2019.9)

出典:Urgewald、Banktrack「Banks and Investors Against Future」 作図:350 Japan

石炭火力発電開発企業への融資 資金使途別(2017〜2019.9)

3メガバンクはそれぞれ石炭火力発電への新規(投)融資を制限した方針を発表していますが(2 – F)、その適用範囲はプロジェクトファイナンスに限られています。下表は、2 – Aの表を資金使途別に示したものですが、銀行の石炭火力発電開発企業への融資のうち、プロジェクトファイナンスが占める割合は一部に過ぎず(みずほ10.8%、MUFG14.1%、SMBC20.6%)、コーポレートファイナンスへのポリシー適用拡大が重要だと言えます。

出典:Urgewald「Global Coal Exit List」の基礎データ 作図:350 Japan

化石燃料への投融資の推移(2016〜2019)

日本の3メガバンクを含む世界の主要民間銀行35行は、2015年12月のパリ協定採択後の4年間で合計約2.7兆ドル以上を化石燃料部門に提供し、その額は毎年増加していることが明らかになりました(*)。

邦銀の中で、化石燃料部門に最大の資金提供を行なったのはMUFGで約1,188億ドル(世界第6位)、次いでみずほが約1,031億ドル(世界第9位)、SMBCが約596億ドル(世界第20位)でした。3社の合計約2,814億ドル(約30兆円)のうち、約3分の1は化石燃料を積極的に拡大している上位100社に提供されていました。また2018年から2019年にかけて、化石燃料部門への資金提供がSMBCは27%、みずほは10%増加していました。

なお、各行は炭素関連資産エクスポージャー比率を公開していますが(MUFG 6.6%、みずほ 7.3%、SMBC 7.8%) ()、本調査で示された化石燃料ファイナンスが調査期間の銀行のファイナンス全体に占める割合はそれぞれMUFG 15.9%、みずほ 12.3%、SMBC 11.2%となっており ()、各行による詳しい情報開示が求められます(2 – E)。

*石炭、石油、ガス部門(オイルサンド、北極圏の石油・ガス、超深海の石油・ガス、シェールオイル・ガス、液化天然ガス(LNG輸出入ターミナル)、石炭採掘、石炭火力発電)に関わる世界2,100社に対する2016年〜2019年の間の融資・引受を対象としている。

出典:Rainforest Action Network「Banking On Climate Change 2020」 作図:350 Japan

ちなみに、各行の2030年までのグリーンファイナンスの目標額は、MUFG 8兆円、みずほ 12兆円、SMBC 10兆円となっており () 、過去4年間の化石燃料ファイナンスの水準と比較すると、化石燃料ファイナンスのウェイトの方が大きくなっています。

銀行の脱石炭・脱化石燃料ポリシーと3メガバンク

国連責任銀行原則

ESG投資が広がるきっかけとなったと言われるのが、国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment: PRI)ですが、その銀行版である国連責任銀行原則(Principles for Responsible Banking)が2019年9月の国連気候サミットで発足しました。

PRBはビジネス戦略を持続可能な開発目標(SDGs)とパリ協定に整合させることを目標としており、6つの原則を掲げています。

PRBは4年以内に原則の実施を証明すれば良いことになっており、スピード感の遅さに懸念の声 ()が上がっていることも事実です。署名銀行である3メガバンクがこれらの原則をどのように実施していくか注目が集まっています。

  • 整合性(アラインメント)
  • インパクトと⽬標設定
  • 顧客(法⼈およびリテール)
  • ステークホルダー
  • ガバナンスと企業⽂化
  • 透明性と説明責任

事業戦略が、持続可能な開発⽬標(SDGs)やパリ協定および各国・地域の枠組で表明されているような個々⼈のニーズおよび社会的 ⽬標に即したものに、またそうした⽬標に貢献できるようにする。

⼈々や環境に対して、我々の事業および提供する商品・サービスがもたらすリスクを管理しネガティブインパクト(悪影響)を低減す る⼀⽅で、継続的にポジティブインパクト(好影響)を増加させる。そのために、重⼤なインパクトを与える可能性のある分野に関して ⽬標を設定してそれを公開する。

顧客と協⼒して、サステナブルな慣⾏を奨励し、現在と将来の世代に共通の繁栄をもたらす経済活動を可能にする。

これらの原則の⽬的をさらに推進するため、関係するステークホルダーと積極的に協⼒する。

責任ある銀⾏業のための効果的なガバナンスおよび企業⽂化を通じて、重⼤なインパクトをもたらす分野について⽬標設定を公表 することで意欲的かつ透明性をもってこれらの原則に対するコミットメントを果たす。

これらの原則の個別および全体的な実施状況を定期的に⾒直し、ポジティブおよびネガティブインパクト、および社会的⽬標への貢 献について、透明性を保ち、説明責任を果たす。

出典:UNEP FI「PRINCIPLES FOR RESPONSIBLE BANKING」 作図:350 Japan

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言

G20の要請を受け「金融安定理事会:FSB」*により設立された、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」は、企業が気候関連の財務リスクについて、一貫性、比較可能性、信頼性、明確性を持つ情報開示を行うことで、投資家などが適切な投資判断を行えるようにすることを目指し、2017年6月最終報告書を公表しました。

「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの柱から成り、シナリオ分析等を通じた気候変動に伴うリスクと機会を特定し、どのようにリスク管理を行うか、またどのような指標と目標を用いて気候リスクを減らしていくか、それらをビジネス戦略やガバナンス体制にどのように落とし込むかなどの情報開示を行います。日本では多くの企業が賛同 ()していますが、最終報告書の提言にあるような情報開示の進展が求められます。

*各国の金融関連省庁・中央銀行から成り、国際金融に関する監督業務を行う機関

ガバナンス

気候関連のリスクと機会に係る当該組織のガバナンスを開示

気候関連のリスクと機会についての、当該組織取締役会による監視体制を説明

気候関連のリスクと機会を評価・管理する上での経営の役割を説明

戦略

気候関連のリスクと機会がもたらす当該組織の事業、戦略、財務計画への現在及び潜在的な影響を開示

当該組織が識別した、短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会を説明

気候関連のリスクと機会が当該組織のビジネス、戦略及び財務計画(ファイナンシャルプランニング)に及ぼす影響を説明

2℃或いはそれを下回る 将来の異なる気候シナリオを考慮し、当該組織の戦略のレジリエンスを説明

リスク管理

気候関連リスクについて、当該組織がどのように識別、評価、及び管理しているかについて開示

当該組織が気候関連リスクを識別 及び評価するプロセスを説明

当該組織が気候関連リスクを管理するプロセスを説明

当該組織が気候関連リスクを識別・評価及び管理のプロセスが、当該組織の総合的リスク管理にどのように統合されているか説明

指標と目標

気候関連のリスクと機会を評価及び管理する際に用いる指標と目標について開示する

当該組織が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスクと機会を評価するために用いる指標を開示

Scope1、Scope2及び、当該組織に当てはまる場合はScope3の温室効果ガス(GHG)排出量と関連リスクについて説明

当該組織が気候関連リスクと機会を管理するために用いる目標、及び目標に対する実績を開示

出典:CDPジャパン「TCFD提言の概要」(2019年3月) 作図:350 Japan

ESGポリシー比較

顧客、投資家、株主、そして国際市民社会からの声を受けて、3メガバンクは2019年〜2020年にかけて、原則、新規の石炭火力発電所向けの(投)融資を禁止する方針を発表しました。一方で、抜け穴(例外規定)が残されていること、また対象が基本的にプロジェクトファイナンスであり、コーポレートファイナンスに制限が設けられていないこと、パリ協定の1.5度目標との整合性(詳細は第3章)がないことなど、様々な問題が残されています。 (

三菱UFJ FG

Mitsubishi UFJ FG, Inc.

原則、新規石炭火力発電所向けファイナンスを禁止。※例外規定あり。

①新規ファイナンスの検討の際、顧客の環境社会配慮の実施状況を確認。②山頂除去採掘(MTR)方式の炭鉱採掘事業向けファイナンスを禁止。

オイルサンドセクター、北極開発セクターは顧客の環境社会配慮の実施状況を確認。

みずほ FG

Mizuho FG, Inc.

①原則、新規石炭火力発電所向け投融資を禁止。※例外規定あり。②石炭火力発電所向け与信残高削減目標「2030 年度までに 2019 年度*比 50%に削減し、2050 年度までに残高ゼロとする *2019 年度末残高は約 3,000 億円の見込み」

①環境に及ぼす影響および労働安全衛生等に十分に注意を払い取引判断。②山頂除去山頂除去採掘(MTR)方式の炭鉱採掘事業向け投融資等を禁止。③気候変動に伴う移行リスクへの対応等を取引先とのエンゲージメントを通じて確認。

①環境に及ぼす影響および先住民や地域社会とのトラブルの有無等に十分に注意を払い取

引判断。②気候変動に伴う移行リスクへの対応等を取引先とのエンゲージメントを通じて確認。

三井住友 FG

Sumitomo Mitsui FG, Inc. 

原則、新規石炭火力発電所向け支援を禁止。※例外規定あり。

①環境社会リスク評価の適用範囲を拡大し、リスクの特定・評価に努める。②山頂除去採掘(MTR)方式の単走採掘事業への支援を禁止。

オイルサンド、シェールオイル・ガス、北極圏での石油・ガス採掘、石油・ガスパイプラインの事業への融資では、環境社会リスク評価の適用範囲を拡大し、リスクの特定・評価の上、慎重に対応を検討。

石炭火力発電向けポリシー 例外規定比較

3行は、原則、新規の石炭火力発電所向け(投)融資を禁止していますが、数多くの例外規定を設けることで、パリ協定の1.5度目標と整合しない、新規の石炭火力発電向けの融資が可能となっています。その際たる例がベトナムのブンアン2石炭火力発電事業 ()で、3行が融資検討中だと言われています(2020年6月17日時点)。

受入国のエネルギー政策・事情
国際的ガイドライン
代替案の検討
高効率発電技術
超々臨界圧(USC)
炭素貯留・回収(CCS)
運用開始日前

:明記  :解釈可能  :記載なし

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