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ダイベスト最前線

ダイベスト・インベスト運動とは?
ダイベスト・インベスト。その運動はグローバルなムーブメントに成長しています。

カリフォルニアで起きた大規模な山火事に散水するヘリコプター。山火事の煙によってあたり一面が赤く照らされています。PHOTO / David Aughenbaugh.

猛威を振るう森林火災に、巨大台風やハリケーン。政治のこう着状態に、企業による形式上だけの環境対策。

気候変動との闘いをめぐり、悲観的な状況が続く中、化石燃料産業からの投資引き上げを求める、ダイベストメント(投資撤退)運動は、大いなる希望の源となっています。

「ダイベストメント」とは?

ダイベストメント(投資撤退)とは、インベストメント(投資)の逆。つまり、非倫理的であるまたは道徳的問題があると思われる株、債券、投資信託を手放すことを意味します。

この文章を読んでいる方の中には「お金を増やしたい」と思い、収益を生み出してくれる株や債券に投資したり、その他の投資先に託している方もいらっしゃると思います。

大学や宗教団体、年金基金、その他の機関投資家も同じように、資産の運用に役立てるため、このような投資に数十億ドル規模の資金を託します。

その中には、化石燃料産業への投資をしてしまう投資家もいます。化石燃料は地球にとってのリスクはもちろんのこと、投資家にとっても大きなリスクを抱えているのです。

そのような石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料を含む地球に優しくない投資先から投資を引き上げる動きがダイベストメントです。

驚くべきスピードで広がる運動の輪

ダイベストメント運動の始まりから10年。今やこの運動は、世界のエネルギー政策に影響力をもつようになりました。

現在、1,485の機関投資家が少なくとも何らかの形で化石燃料からのダイベストメントを公式に表明しています。その運用資産を合わせると、なんと$39.2兆ドル(訳注:約4470兆円)という驚くべき金額に成長しました。

2大経済大国である米国と中国の国内総生産をあわせた額がダイベストメントされたと考えていただければその額の大きさが分かっていただけるかと思います。

ダイベストメント運動に関する最初の報告書が発表された2014年以降、投資撤退が公式に表明された資産の総額は、75000%以上増加しました。

機関投資家によるダイベストメント表明の件数は720%上昇。直近のレポートが公表された3年前と比較し、49%も上昇しています。

また、ダイベストメントした機関が全員、公表するわけではありません。実際のダイベストメントの金額は、さらに大きいものと予想されます。

2019年9月20日。フィリピンのケソン市にあるフィリピン大学で、フィリピン全土の600人の学生とその他の若者の支持者が本日の気候マーチに参加。PHOTO / LEO M. SAANGAN II.

グローバルなムーブメントへの成長

大学で学生が始めたこの運動は、今や当初とは比べものにならないほどの規模に拡大しました。

現在、ダイベストメント運動では、都市や州、財団、銀行、投資信託、 グローバル投資にかかわるあらゆる機関に働きかけを行なっています。

2021年後半、わずか数ヶ月たらずの間に、著名な機関が次々とダイベストメントを表明しています。

ハーバード大学、オランダの年金基金「PME」、カナダの年金基金「CDPQ」、フランス郵便局が運営する銀行「ラ・バンク・ポスタル」、米国のボルチモア市、フォード財団、ならびにマッカーサー財団等、名だたる機関がダイベストメントを公表しています。

ダイベストメント運動は、グローバルなムーブメントへと成長しました。

当初、ダイベストメント運動の4分の3以上は米国で行われていましたが、今やその割合は3分の1以下です。つまり現在は、米国以外にもダイベストメント運動が広がったことを意味しています。

さらに、銀行や資産運用会社、保険会社を対象とした金融キャンペーンも世界各国でスタート。化石燃料産業の事業拡大に必要な金融サービスが打ち切られ始めています。

世界で急激に変わる「化石燃料企業と関わるリスク」

ダイベストメント運動の当初の目標は「化石燃料企業の政界への影響力をなくす」というものでした。

ダイベストメント運動の成長によって、この目標は達成しつつあり、化石燃料企業が弱体化し始めています。

一方で、未だに社会的にも幅広い影響を持っているのもまた事実です。

また、米国だけでなく、世界中で化石燃料の消費を止める動きが広がっています。

アメリカの大統領選では気候変動問題が大きな争点となり、ほとんどの候補者が「化石燃料企業からの選挙資金の受け取りを辞退する」という、大統領選がはじまってから初めての異例な事態となりました。

ダイベストメントをきっかけとした多くのキャンペーンによって、世界中で数々の化石燃料プロジェクトが一時停止や打ち切りとなり、「化石燃料と関わるリスク」が大きく変わりました。

ようやく始まった化石燃料産業の縮小

今やこのムーブメントは、これまで規制されてこなかった炭素汚染について、化石燃料企業の責任を追求するほどにまで成長しました。

ダイベストメント運動による効果を石油会社自身が認めています。世界各国の有数の信用格付け機関も、判断の際に「ムーブメントの影響」を考慮しています。いまやダイベストメント運動は、市場を動かす大きな一因となっているのです。

化石燃料産業は、この「ムーブメント」を避けることができません。2021年には、原油価格の短期的な高騰に伴い株価が一時上昇したものの、過去9年以上にわたり、化石燃料関連銘柄は、市場平均を常に下回り続けています。

機関投資家は、このような「長期的傾向」を重要視します。

かつて石油大手はウォール街を独占、ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)や上場インデックスファンド米国株式(S&P500)の主要銘柄として、文字通り市場をリードしてきました。

しかし、時代が大きく変化しました。2020年、あの石油大手のエクソンモービルは、ダウ平均から除外。かつて株式市場価格の29%を占めていた石油・ガス企業は、ここ最近の株価上昇を考慮しても、2.7%にまで落ち込んでいます。

金融界に浸透した「座礁資産リスク」

ムーブメントが提唱する「金融のありかた」を、金融界の著名なエリートたちが徐々に受け入れ、行動し始めたことも、重要な勝利のひとつです。

現在、金融面から見ても「化石燃料への投資は無謀」とされています。

「化石燃料産業の価値は、いわゆる「座礁資産」になる」という意見は、かつて少数派の意見と言われていました。

「座礁資産」とは?

座礁資産とは、経済的・物理的・規制等な要因によって、想定よりも早い時点で、資産価値の寿命が尽き、もはや利益を得ることができない資産のことを指します。

近年では主に気候危機への対策強化により、自然エネルギーへの移行が急務とされています。

そのため、石油やガス等の資源はもちろんのこと、探査や開発資産、生産や処理施設、パイプラインやタンカーなどの流通を含む、化石燃料産業全体が座礁資産と呼ばれるようになりました。

今や、「座礁資産」という概念は、世界最大の投資会社、ブラックロック社がダイベストメントすべき理由として引き合いに出すほど、広く知られるようになりました。

加速する自然エネルギーへの移行

さらに、ダイベストメントが健全な金融戦略であることを、多くのデータが証明しています。

早くからダイベストメント戦略を取り入れた投資家群は、前向きな財務成果をあげています。これは、ウォール街の投資会社による調査分析でも裏付けられています。

ダイベストメントは、自然エネルギーへの早急な移行に大きな貢献を果たしています。化石燃料からの投資引き上げ計画を公表する機関が増えれば増えるほど、「気候変動により化石燃料は廃れ、自然エネルギーの未来が不可避となる」という、次世代の金融の姿に言及する人が増えるからです。

結果、変化の必然性を、ますます多くの人々が意識することにより、良いサイクルが生まれ、変化へのスピードもこれまでになく加速します。

アメリカ – 気候変動により多くの住宅が浸水し、大きな爪痕を残した。 PHOTO / RoschetzkyIstockPhoto

自然エネルギーに3倍の資金投入が必要

しかし、課題は山積しています。ここ数年間の自然エネルギーシステムや、より大規模で持続可能な気候ソリューションへの投資ペースが、気候変動を止めるには、全く不十分だったという事実が明らかになっています。

今年初め、国際エネルギー機関(IEA)は、ネットゼロの未来に向けた画期的なロードマップを公表しました。その中で国際社会が定めた気候目標を達成するには、投資家は2030年までに自然エネルギー事業に投入する資金を3倍以上にする必要があると指摘しています。

自然エネルギーへの移行が遅れれば、その分、代償が大きくなる一方です。健全な世界経済のために、自然エネルギーへの投資を急拡大させることが極めて重要なのです。

さらに、自然エネルギーへの投資は気候危機を止める目的を達成するだけでなく、経済的利益をもたらしてくれる可能性も秘めています。

投資先にも多角的、長期的な視野を求められる時代に

「投資先をどこにするのか」という問題と同時に重要なのが、「資金をどのように投資するか」という点です。

歴史を振り返ると、大規模なエネルギー革命の際、多くの問題を残しました。過去の過ちを再び繰り返すことなく、「経済、ジェンダー、人種をめぐる正義を軸に移行を進めなければならない」という認識が高まり、これらを総称した「気候正義」を求める動きが強まっています。

化石燃料に携わってきた労働者や地域社会、何世代にもわたり不平等な扱いを受けてきた先住民の人々、地方の人々、気候変動による被害を不当なほど深刻に受けてきた女性や子供たち、その誰一人として取り残されることのないよう、移行を進める必要があるのです。

ダイベストメントと同様、公正な移行への投資についても、その経済的合理性が証明されています。そのためには、こうした投資を促すには、明確なミッションを掲げる機関投資家が、より大規模な投資コミュニティを牽引していくことが不可欠です。

残された時間はあと9年もない

これからの数十年間は、多くの人々にとって激動の時代となるでしょう。

しかし、決して悲観する必要はありません。この危機を好機に変えるために、視野を広く持ち、着実なワークロードによって公正な移行が実現できれば、より良い社会に変えることができる可能性が秘められています。

ダイベストメント運動が10年を経た今、このムーブメントが世界に大きなインパクトを与え、「公正な移行」がニューノーマルになることは明らかです。

今こそ、より多くの人が先駆けとなり、声を上げることで実現を急ぐ必要があります。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書によると、取り返しのつかない状態を回避するために、世界のエネルギーシステムや経済を大変革するのに残された時間は、あと9年を切ったとの調査が明らかになっています。

今後、求められる3つの重要なポイント

今後ダイベストメント運動は、世界中の機関投資家に対する働きかけをますます強め、次の3点を要請する必要があります。

① 化石燃料からの早急な引き上げ

すべての機関投資家は、石炭・石油・ガス会社およびその資産から投資を完全に引き上げたうえ、今後、一切の投資を行わないことを速やかに公式表明すべきである。化石燃料の一部をダイベストメントした機関は、完全にダイベストメントしなければならない。なお、公式表明に伴い、すべての機関投資家は、表明に沿った組織指針の変更、規制担当者の配置、政治関連の支出を調整すべきである。

② 気候ソリューションへの投資

すべての機関投資家は、資産の少なくとも5%を気候ソリューションに投資したうえ、2030年までにその数字を10%に引き上げるべく、速やかに行動を起こさなければならない。気候ソリューションには、自然エネルギーシステムや、すべての人にエネルギーアクセスを確保する取り組み、地域社会や労働者のための公正な移行への投資が含まれる。さらに投資家は、先住民・地域コミュニティをはじめとした人々の人権および環境基準を尊重することについて、投資先に説明責任を果たすよう求めなければならない。

③ ネットゼロ計画の採用

2050年までにネットゼロを実現するため、すべての機関投資家は、ネットゼロ計画を採用すべきである。この計画には、化石燃料への投資を直ちに打ち切ること、また世界の気温上昇を1.5℃未満に抑えるという科学に基づいた要請に従い、ポートフォリオのほかのすべての資産について、2030年までに排出量を半減させる移行計画を盛り込むべきである。

世界中の機関投資家は、化石燃料が投資ポートフォリオや地域社会、選挙区にもたらすリスクについて理解しつつありますが、いまだに気候変動を止めるには十分ではありません。

世界中のありとあらゆる機関投資家は、いち投資家として、気候変動の責任を重く受け止め、自身のため、経済のため、そして世界のため、一歩前に踏み出し、ダイベスト・インベスト運動への参加表明を求められる動きが、より一層強くなっています。

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