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ダイベスト最前線

わたしたちには「化石燃料に自分のお金を使ってもらいたくない」という権利がある
関西学院大学 教職員組合 社会学部支部

日本ではじめて、教育機関の教職員組合として銀行のダイベストメントをされた、関西学院大学 教職員組合 社会学部支部。海外では多くの大学がダイベストメントをするなか、日本での難しさはあったのか、何かアドバイスなどはあるのかをインタビューしました。


Q 組合についてご紹介いただけますか?

わたしたちは、関西学院大学(KGU)教職員組合の社会学部支部です。

KGUは、関西地方の難関私立4大学のうちの1校として知られています。 教職員組合の会員は計478名ほどで、そのうち48名が社会学部支部に在籍しています(2018年度)。 社会学部では、常勤教職員のほぼ全員が組合員です。

わたしたち組合員が組合に支払うのは月給の0.8%(基本給の0.8%)で、これは本部と‘地方’支部(その他の学部や研究機関など)にそれぞれ割り当てられます。 組合本部は、組合員の給与や福利厚生、管理面などについて大学側と交渉したり、組合員のためのイベントを主催したりします。 組合の社会学部支部は定例会議を主催する他、会員同士の交流を促します。

Q 組合がダイベストした理由を教えていただけますか? 3大メガバンクからダイベストした一番の理由と、 実際にダイベストして感じたことをお聞かせください。

2018年5月、金沢で行われた辻信一(ペンネーム:Keibo Oiwa)さんとのトークイベントで、対談相手として登壇された、ビル・マッキベン(350.org設立者の一人)さんにお会いしたことが、大きなきっかけです。

個人的には、かなり前から化石燃料ダイベストメントを注視してきました。 「環境メディア・リテラシー(2016年日本語で出版)」という自著でも、これについて紹介したほどです! ダイベストメント、スゴくいいと思います。崖っぷちの状態の気候をなんとかするために、個人でできること(電球を変えるなど)と、政治主導の大改正(炭素税、パリ協定、国家エネルギー政策など)との間に広がる深い溝を、ダイベストメントで埋めることができるからです。

個人でできることはあまりにも貧弱で、かといって政治主導の改革は、そう簡単にできることではありません。 組織のあり方を変えるダイベストメントならば、誰もが参加できます。 というのも、わたしたちは皆、なんらかの組織に所属しているからです。そして組織というものは大抵の場合、資産運用をしています。ですから、その一員であるわたしたちには、「化石燃料に自分のお金を使ってもらいたくない」という権利があるのです。

そこで、2018年度の社会学部支部の会計担当を依頼された時、「やってみよう」と思いました。 この年度には財務関連の大規模再編を予定していたので、タイミング的にもちょうど良かったのです。

そう簡単には進まないだろうと、覚悟していました。わたしたちの支部の会員の皆さんは熱く議論するのが好きで、意見が一致することなんて、まずないからです。

でも予想とは裏腹に、ダイベストメントの提案に対し、異議を唱える人は一人もいませんでした。 会員のほとんどが労働、地域社会、社会正義、環境問題といったことをテーマに研究しているため、「ダイベストメント」という概念は、比較的受け入れやすかったのかもしれません。 もしかすると、余計な仕事をするのは私なのだから、自分たちには関係ないと思っただけかもしれませんが (笑)。

同僚と一緒に企画し、2019年2月に開催したダイベストメントの告知イベントでは、前向きな意見が多数寄せられました。メガバンクにお金を託すということは、組合の理念や学生の関心とは相反するものをサポートするということです。

このことに、多くの会員たちは気がついていないようでした。 プレゼンテーションでは、350.orgのスライドやビデオメッセージを使いました。 結局その日の夜、イベント終了時の写真撮影には、ダイベストメントの横断幕のもと、参加者全員がぎゅうぎゅうになって収まりました。

ためらう人もある程度はいるだろうと思っていたので、皆さんの熱意のレベルには驚き、とても嬉しく思いました。

Q 実行に移そうと思ったのはいつ頃ですか? その際のプロセスや、 一番大変だったことをお聞かせください。

実行までにかかったのは、ほんの数ヶ月です。

まずは、財政状態を確認しました。 分かったのは、投資をしていないこと(株式投資の引き上げは複雑なので、ホッとしました)。けれど、メガバンクの口座に500万円ほどの預金があることも判明しました。 となると、あとはその預金を「クールバンク」の口座に移せば良いだけです。

そこで、事務的な助けを受けながら、当時利用していた銀行と、乗り換え先候補の環境に優しい銀行の良い点悪い点を説明するレポートをまとめました。 その際、350.orgのサイトにあるQ&Aをまとめたパンフレットも添えました。

最終的に、わたしたちの理念に一番近いと思った地元の信用金庫を選びました。 利便性という点ではメガバンクに劣りますが、コスト面では競争力があり、またメガバンクにはないサービスも提供してくれます。 組合支部の委員会は、ダイベストメント計画を承認した上、その実行については全て一任してくれました。 何か動きがあれば、委員会にはその都度メールで報告しました。

それからメガバンク宛てに手紙を書き、数十年にわたり口座を保有していたその銀行の支店に直接手渡しました。

その際、できれば口座を乗り換えずに済ませたいことを伝えた上、もし化石燃料(特に石炭)への融資を打ち切る計画があるのならば、再検討すると申し出ました。 支店マネージャーとお話しする機会をいただけたので、教育者による組織として、若者たちの未来を壊すプロジェクトに自分たちのお金を注ぎ込むわけにはいかないのだという我々の立場を説明しました。

ミーティングの場で、我々の預金が県内の石炭火力発電所への資金として使われるかどうかについても尋ねました(県内では、複数の石炭火力発電所を建設予定)。 さらに資金管理という点でも、化石燃料を除外することは理にかなうこと、また世界中の金融機関の多数がダイベストメントに取り組んでいることを強調しました。

個人的には共感してくれたようでしたが、結局のところ、マネージャーは銀行のCSR報告書に目を通すよう述べた上、手紙を本部に渡すことを約束してくれただけでした。 その後、銀行から回答をもらえたのは驚きでした。 曖昧ではあったものの、少なくとも自らの立場を弁明する必要性を感じたのでしょう。 我々は、我々のお金を別の銀行に移すという対応を取りました。 その言葉を、実行に移したのです。

全体的には驚くほど簡単でした。 大変だったことといえば、新しい口座を作る際のペーパーワークぐらいです。 通常、銀行は我々のような組織に対し、非常に厳しい規制を適用します。 信用金庫の担当者が組合のことを良く知っていて、力になってくれたのは幸運でした。

Q 次のステップについて教えてください。

まずは、KGU内の別の支部および本部、そしてできれば総務課組合にも、ダイベストするよう促していきたいと思います。 その上で、大学の教職員に対し、それぞれの専門分野の所属協会にダイベストメントに向けたロビー活動を行うよう促していきたいと思います(通常、研究者はそれぞれの専門分野に関連する2~10の組織に所属しており、中には相当の予算を保有する組織もあります )。 もちろん、大学内のその他の組合にもダイベストしてもらいたいと思っています。

大学そのものをダイベストさせるというのは、非常に有意義な目標ですが、大規模私立大学の多くは、意思決定プロセスや財務体質が複雑なため、難しいかもしれません。 とはいえ、学部や研究施設の銀行口座をダイベストし、その一つひとつの予算を管理することで、機運を高めていくことはできるはずです。

もうひとつのターゲットは年金基金です。 私立大学の職員は、国民年金基金や健康保険ではなく、私学共済に加入しています。 さらに大学の多くは、年金資産の一部を加入者自らが運用できる、確定拠出年金制度に加入しています。 この制度を導入している組織には、メガバンク系の証券会社を利用しないよう求めるべきです。預けたお金が、石炭重視の投資に注ぎ込まれることは予測できますから。 その代わりに、確定拠出年金制度に加入する職員には、どのような投資が倫理的かつ環境に優しいのかといったアドバイスを含め、資産運用に関する適切な研修を受けさせるよう、(組合を通じ)大学側に求めていくべきです(こうした職員研修は、法律で義務付けられています)。 

Q 大学内の別の組合に伝えたいことはありますか?

ダイベストするのは簡単です。 銀行口座について強いこだわりを持つ人は、おそらく自分しかいないと考えて良いでしょう。 会計担当を説得できたら、もうこっちのものです。

でももし、会計担当の理解を得られたなかったら(余計な仕事を増やしたくないというのが本音かも)、ペーパーワークなどは自分がやると、ボランティアを申し出ましょう。 それでもダメだったら、財務担当に立候補してみましょう(ライバルはそれほど多くないはず)。 実際、仕事はそんなに難しくありません。 大抵の仕事内容は、予算案の作成(大半は前年度のものをコピーするだけ)や請求書の支払い(いつも自分でやっていることをするだけ)など、やり方が決まっているものばかりです。 事務スタッフの助けを借りることができれば、とても助かります。

ダイベストメントについて組合員に知ってもらうのも目的ですが、そのタイミングは重要で、いつ行うかはその時の自分の状況によります。

「気候変動を人に伝えるとき」のアドバイスはありますか?

気候について話す際、天気を話題にする。気候の脅威がいかに深刻か、理解していない人は大勢います。それでも皆、異常気象が生活にも支障をきたしていることには気がついています(例えば、昨年は異常気象のせいで入試の日程を変更せざるを得なくなり、その影響で大学の年間スケジュールまで更することを余儀なくされました)。

地域と関係のある話をする。 わたしたちの場合、近隣の石炭火力発電所から排出される大気汚染が、キャンパスからはっきりと見えます(キャンパスは、神戸から大阪にかけての大都市圏にあります)。

「環境問題にあまり関心がいない人」に話す際のアドバイスはありますか?

– メガバンクの労働関連の実績を見てみると、組合が取引すべき相手ではありません。

– 化石燃料への投資は、悪いビジネス判断です(と、世界銀行からロックフェラー財団に至るまで、さまざまな組織や投資顧問が述べている)。

– メガバンクの方が費用は高額な場合が多い、もしくはメガバンクは必要としてるサービスを提供しません。

– 小規模組織として新しい口座を開くなら、大手銀は耳にしたことのない書類の提出を求めるなど、やりとりが面倒かもしれません。

– これは非常に大きな一歩。世界各地の、自分たちに似た組織の多数がダイベストしています!

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