2019年3月15日、世界中で気候変動ストライキが開催された。ニュージーランドでも学生が「今、行動すべきとき」というプラカードを掲げた。PHOTO / David Tong – 350.org .
はじまりは、学生による提唱
化石燃料投資からの撤退と、自然エネルギー投資を促すムーブメント、ダイベスト・インベスト運動は2011年、米国ペンシルバニア州にあるスワースモア大学の学生たちが、大学に対しすべての化石燃料からダイベストメントするよう求めたことから始まりました。
同大のほか8校の大学の学生たちも、化石燃料の中で汚染が最も深刻な石炭からのダイベストメントに焦点を当て、同様のキャンペーンを開始しました。
ほどなくして、ウォレス・グローバル財団(Wallace Global Fund)などの支援を受け、こうしたキャンペーンは米国各地のキャンパスに広がりました。化石燃料からダイベストメントした初の機関として知られるのは、ハンプシャー大学ですが、初めて本格的な成果を上げたのは、2012年秋、学生主導の強力なキャンペーンを経て表明された、メイン州のユニティカレッジによるダイベストメント計画だと言われています。
米国から世界に広がるダイベストメントの輪
こうしたムーブメントは、巨大ハリケーン・サンディが米国北東部に上陸し、被害総額数百億ドルという、甚大なダメージをもたらした2012年以降、急速な広がりを見せました。
そんな中、環境活動家のビル・マッキベン、350.org、ならびに学生オーガナイザーたちが「計算せよ(Do the Math)」ツアーを開始、科学的気候分析にのっとった行動を起こすよう訴えながら、全米での公演を実施しました。
さらに2011年と2013年、非営利組織(NPO)カーボン・トラッカー・イニシアチブ(Carbon Tracker Initiative)は、「燃やせない石炭(Unburnable Carbon)」に関する初のレポートを公表、これにより大勢の人々が「カーボン・バブル」や「座礁資産」などのコンセプトについて知ることとなりました。これらの出来事は、北米からオーストラリア、アジア、欧州に至るまで、ダイベスト・インベスト・キャンペーンを広めるきっかけとなったのです。
信者数の大きい宗教団体の参加
さらに続いて、これまでのダイベストメント・キャンペーンに大きく貢献してきた宗教団体も参加を強化するようになりました。
信仰に基づいた投資活動を牽引する、宗教界のリーダー的存在、スウェーデン国教会は、ダイベストメントした初の宗教団体で、6年の時をかけ2014年にダイベストメントを完了しました。直後にこの動きに続いたのは、世界6億人のプロテスタント信者を代表する世界教会協議会(WCC)です。
2014年、国連気候変動サミットに先駆け、ムーブメントは投資撤退に関する初のレポートの中で、公式表明されたダイベストメントの総額が520億ドルになることを発表。そんな中、デズモンド・ツツ元大主教から、このムーブメントへの賛同をいただきました。
それ以降、ダイベスト・インベスト運動は飛躍的に拡大、ますます広がる気候ムーブメントの中心的存在となり、そこから重要な関連キャンペーンが多数生まれました。
中でも、ダコタ・アクセス・パイプラインへの投資打ち切りを求める米国のキャンペーン「ディファンドDAPL(DefundDAPL)」や、トランスマウンテン・パイプラインへの保険サービスの打ち切りを求めるカナダのキャンペーンなど特に先住民コミュニティ主導のキャンペーンが多数生まれました。
明らかになる化石燃料企業による情報操作
さらにダイベスト・インベスト運動は、未公開企業や中央銀行、保険会社、資産運用会社、金融規制当局を対象とする、金融に焦点を当てた気候キャンペーンにもインスピレーションを与えています。
おそらく、もっとも重要なのは、この運動をきっかけに、より多くの人々が気候活動に参加し、活動家が育成されたことです。これら気候活動家は、その後、世界各地で各種気候団体のリーダーとして、気候アクションを推し進めています。
この運動では、当初から「化石燃料企業をめぐり語り継がれてき常識」を変えることに、注力してきました。
目標は(日本でも50〜60年代の4大公害病で企業犯罪が社会的にも認められたように)化石燃料企業がモラルが欠如した状態であることを、改めて認識すること。そして、その事業を支える金融網や、気候対策を妨げるため政治プロセスを強引かつ巧みに操ろうとする、化石燃料企業に世論の注目を集めることです。
パリ協定締結後の2016年から2019年までの3年間、石油の5大上場企業(エクソンモービル、ロイヤル・ダッチ・シェル、シェブロン、BP、トタル)は、気候対策を阻止するロビー活動や、気候危機をめぐる自社の責任について誤解を与える広告キャンペーンに、10億ドル以上費やしていたという事実も明らかになっています。
しかし、気候ムーブメントの大きなうねりが、気候をめぐる世論や政治勢力を変化しつつあります
風向きが変わるエネルギー市場
中でも特に、ダイベスト・インベスト・キャンペーンは、化石燃料企業とその資金をめぐる世論を変えてるうえで、重要な役割を果たしてきました。
化石燃料消費は、世論の支持を急速に失いつつある。どの化石燃料事業よりも、太陽光、風力、水力事業の拡大を支持する世論の方が、大々的かつ世界的に広がっている。
欧州では、圧倒的多数の81%の市民が、化石燃料への助成金を減らすことになっても、政府が自然エネルギーへの財政支援を強化することに賛同。ギャラップ社の調査によると、政府はどの化石燃料も重視すべきでないと考える米国民が、2019年初めて大多数になった。
化石燃料産業が長年にわたり「クリーン燃料」と誤解させてきた天然ガス利用を増加させることについて、支持率は2013年の65%から、2019年にはわずか46%へと低下。なお、石油の支持率は同年比で46%から28%、石炭は31%から22%に低下している。
2019年の調査で、テキサスやルイジアナなど、歴史的に石油に依存してきた州を含む、米国民の57%が、気候変動がもたらした被害について、石油会社をはじめとした化石燃料企業は賠償を支払うべきだと考えていることが明らかになりました。
2011〜2020年、ダイベスト・インベスト運動の主な出来事
2011年
スワースモア大学は、世界最難関校の大学の1つでもある、アメリカ合衆国の私立大学。学生主導によるダイベストメント運動により全世界に広がった。PHOTO / Spiroview Inc
2009年の国連気候変動会議において、二酸化炭素(CO2)排出量削減への解決策が見出されなかったこと、また気候関連の政策提言に若者たちを取り込めなかったことが主な原因となり、大学に対しダイベストメントを求める学生主導の気候活動が全米各地で見られるように。
スワースモア大学の学生たちは、化石燃料企業大手16社からのダイベストメントを大学基金に要請。その理由のひとつとして、石炭による甚大な悪影響を受けていたアパラチア地方の人々との連携を挙げた。学生主導のキャンペーンは、その後拡大を始める。
2012年
2012年11月11日、アメリカのカリフォルニア大学にて「計算せよ(DO The Math)」ツアーが開催された。ビル・マッキベンは科学に基づいた気候変動対策を訴えた。PHOTO / PegMitchell .
ビル・マッキベンは、自身が執筆した記事「地球温暖化の恐ろしくて新しい数学(Global Warming’s Terrifying New Math)」で、国際環境NGO「カーボン・トラック・イニシアチブ」の気候をめぐる新たな計算を紹介。
この計算によると、気候危機を回避するつもりなら、化石燃料埋蔵量の80%は消費できない。記事は、瞬く間に多くの人々の目に留まり、米国の大学を皮切りに、化石燃料ダイベストメントを求めるムーブメントが広がるきっかけとなった。
2013年
米国のバラクオバマ大統領は、ニューヨークで開催された国連気候サミットで気候変動の重要性を訴えた。PHOTO / United Nations
2014年
国連世界気候サミットにてデズモンド・ツツ元大主教が参加。世界にダイベストメントの重要性を訴えた。PHOTO / UN Photo, Jean-Marc FERRE
2014年1月30日、「ダイベスト・インベスト慈善ネットワーク(Divest-Invest Philanthropy)」が発足。
発足には、それぞれの資産を合わせると20億ドル以上になる17財団が参加。ダイベストメントおよびインベストに向けた共同事業を公式に表明したうえ、投資と気候変動の関係をめぐるより幅広い対話を、ほかの慈善団体に呼びかけた。
2014年9月、ロックフェラー兄弟財団が化石燃料投資からの撤退を宣言。化石燃料事業拡大により財を成した財団の撤退宣言は、当時大きな注目を集めた。
2015年
ノルウェーの議会(ストーティング)。2015年に政治家ファンドの30%以上を石炭採掘・石炭火力発電を収益としている企業からのダイベストメントを発表。 PHOTO / Shevchenko Andrey
2016年
2016年は教皇フランシスコの回勅「ラウダート・シ」の1周年記念。カトリック教会は、史上初となる共同ダイベストメントを宣言した。 PHOTO / AM113
6月、教皇フランシスコの回勅「ラウダート・シ」の1周年を記念し、カトリック教会は、史上初となる共同ダイベストメントを宣言。また、異なるさまざまな宗教の指導者たちがダイベストメントを求める書簡に署名した。世界各地の7つのカトリック機関が、化石燃料からの投資撤退を宣言。
2017年
ケープタウンは南アフリカの南西海岸沿いにある港町。南半球初の主要都市となった。 PHOTO / Benjamin B
2018年
世界の主要な商業、金融、文化の中心地であるニューヨーク市。気候変動の重要性を重く受け止め、1890億ドルの年金基金をダイベストメントした。 PHOTO / Tinnaporn Sathapornnanont
2019年
欧州投資銀行は、欧州連合のバランスのとれた発展に寄与し、欧州における経済・社会の結合を強化させることを目的として活動する融資機関。石油・石炭・ガスへの投資打ち切りを表明した。 PHOTO / Roberto La Rosa
化石燃料を手放すべき金融事例が増加。エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)は、世界最大の資産運用会社、ブラックロックおよび同社保有の化石燃料株が、価格破壊と機会費用のため900億ドル以上の損失を出したことを指摘する、画期的レポートを発表。金融機関が化石燃料から投資撤退を開始。
欧州投資銀行は、2021年末までに石油・石炭・ガスへの投資打切りを表明した、初の国際銀行となった。
2019年、南アフリカのケープタウンが、ダイベストメントに関する初の大規模世界会議「未来のための投資:気候ダイベスト・インベストサミット(Financing the Future: The Global Climate Divest-Invest Summit)」を開催。サミットは、機関投資家による新たなダイベスト・インベスト宣言が表明される場となった。
またサミットでは、万人がアクセスできる自然エネルギーを確保するには、環境に負担をかけない平等で公正な未来への投資を行うことも等しく重要であることが強調された。2019年末までに、化石燃料からの撤退が表明された投資額は、11兆ドルを上回った。
2020年
ニューヨーク州年金基金は、米国で最大の公的年金制度の1つ。2260億ドルという巨額の資金を2024年までに化石燃料企業からダイベストメントすることを発表した。 PHOTO / lev radin
2020年12月、米国第3位のニューヨーク州年金基金は、2024年末までに2,260億ドル規模の退職基金について、もっともリスクの高い化石燃料企業から投資を引き上げることを宣言。